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火気厳禁の書斎

名は体を表す。です。

愛し貴女へ

冬の空は澄み切った空気と太陽の光だけもたらす。

冷たい風は今日はお休みみたい。

つなぐ手を確かめると、こっちに引き寄せた。

「先生、次はどこに行きます?」

いつものつまらなさそうな顔をして、先生が付いて来る。

「あー、何でもいいから手を離せ」

「何でですかぁ」

「…いいから」

いつもの照れ隠し。

強情な先生はとっても可愛い。

「じゃあ…次ゲームセンターでも行きます?」

少し先生は考えるような素振りをして、「まあ、いいか」と小さく返事する。

「じゃあ決まりですね」

笑みがこぼれるのを抑えもせず、私と先生は歩き出した。

 

今日は先生とデート。

久々のデート。

先生の告白から一ヶ月ほど過ぎて、私達は晴れて「恋人同士」として付き合っている。

学校でも、その外でも、ずっと先生と一緒に居たい。

でも私は中学生だから、ずっと一緒に居る訳にはいかない。

だから、月一回のデートの時間がとっても待ち遠しい。

だから今日を大切にしようと思う。

二度と来ない今日を。

 

電子音の波を発するゲームセンターに足を踏み入れる。

「あっ、ぬいぐるみですよほら」

私はクレーンゲームのガラスケースを指差す。

「…」

先生はあまり乗り気ではなさそう。

仕方が無いので私が背を押す。

「先生、これ取って下さい」

「あーもう、絶対言われると思った」

大きなぬいぐるみの瞳を見つめる。

「いいか?一回だけだぞ」

先生は革の小銭入れから二百円取り出すと、嫌そうに投入口に入れる。

吊るされたクレーンがピカピカと光り出す。

「これか」

先生は小さな『→』ボタンを綺麗な指で押す。

う゛ぅぅぅっとクレーンが横に動く。

「よし」

重なった熊のぬいぐるみのお腹に狙いを定めた先生は、極めて真剣な目つきで「↓」のボタンとケースの内側を見据える。

「先生、取れそうですか?」

「ちょっと黙ってろ」

怒られた。

心なしか先生の周りに見えない集中オーラが展開されていく。

私は黙って見守ることにした。

先生は一つ咳払いをすると、ボタンに指をかけた。

う゛ぅぅぅぅぅ。

そのままクレーンが下がって、いかにも弱そうなアームが熊のお腹をつかむ。

「よっしゃ」

ガッツポーズする先生。可愛い。

お腹をつかんだクレーンが上がると同時に、少しぬいぐるみが持ち上がる。

緊張の一瞬。

ぐでっと熊が持ち上がったかと思うと、そのまま横に動く。

一瞬の後、熊はストンとアームから落ちた。

「あぁ~…」

肩から力が抜ける。

見ると、取り出し口のすぐそばまで動いて落ちた様だった。

「でも約束ですもんね。仕方無いです」

少し後ろ髪を引かれたけれど、先生に鬱陶しく思われるのは嫌だ。

ここは折れておこう。そう思った。

先生はまだ熊のぬいぐるみを凝視している。

「いいですよ、悪いですし…」

きっと私は苦笑いをしていただろうが、先生はこちらを見もしない。

突然クレーンゲームの本体を蹴り出す。

「先生?」

ガンッ、ガンッ。

「ちょっと、先生ってば」

ガンガンガン。

「警報とか鳴っちゃいますよ!?何考えて―――」

ガタンっ。

音がする方向を見ると、熊のぬいぐるみが取り出し口からこっちを見ていた。

「これなら二百円で済むだろ」

先生の顔がどこかほころんでいるように見えて、私はついつい笑ってしまう。

「ほら」

先生がぬいぐるみをこっちに渡す。

「ありがとうございます」

とても嬉しい。

ぬいぐるみは、今日という日の証のように思えた。

二度と来ない今日の。

「ありがとうございます」

 

ひと通りゲームセンターで遊び終えて外に出ると、辺りには夜の帳が下りていた。

暗い道を駅まで歩く。

それが、先生との別れを近づけることは分かっているけど。

それでも暗い道を歩く。

「…今日、泊まってくか」

静寂の幕をくぐり抜けるような言葉が、私の耳に届く。

「でも、着替え持ってないですし」

「何だ?私のじゃ嫌か?」

「親に連絡入れれば良いだろう。今日は泊まっていけ」

唐突な優しさに私は戸惑いつつ、今晩は泊めてもらうことにした。

「もしもし」

電話をかける。

「今日…えっと」

私はふと、言葉に詰まる。

先生との関係をどう説明したら良いのだろうか。

「友達の家に、泊めてもらうって」

困った。

咄嗟についた嘘は、少し震えていたかもしれない。

「もう遅いからって、向こうの…」

まだ鼓動が安定しない。

もしうっかり喋ってしまってたら、どうなっただろう。

秘密だけど、秘密だから、困ってしまう。

何とか了解を得た私は電話を仕舞う。

先生が私の手を握る。

「飯食い行こう」

「そうですね、私お腹ペコペコ」

「何処がいい?」

「んー、先生が食べたいものが食べたいです」

 

結局夕飯は先生の行きつけらしい小さなラーメン屋で済ませた。

愛想のいい店主のおじさんは「おお、先生。今日は生徒も一緒かい」と言って、先生をからかっていた。

そこから少し歩いて先生の部屋へ向かう。

「…お邪魔します」

先生は無言で部屋に上がると、明かりを点けて私を手招きした。

「まず手を洗え」

流石は保健の先生。

「爪は切ってあるか?」

洗い終えた手を覗き込まれる。

「よし」

そう言うと、先生はリビングに行ってしまった。

一体何だったのだろう。

洗面所を見渡してみると、先生の部屋らしく物が綺麗に整理されているようだった。

ふと、さっきのことが頭をよぎる。

先生との関係。

先生との恋。

世間の目ってヤツは、私達をどう見るのだろうか。

同じ性別同士での恋愛は、おかしいと思うのが多数派だろうか。

「あすか?」

先生の声で我に返った。

「…何でもないです」

導かれるままに移動。リビングでは映画をつけていた。

「白黒だ」

チャップリンだよ、知らないのか」

古い映画だった。

科白もほぼ無い。

どうやら近未来の話のようだ。

一人の労働者がただひたすらにネジを締めている。

「コメディです?」

「まあ、そうだな」

男は機械に飲み込まれて気が触れてしまったようで、病院に送られる。

治療が終わるも、冤罪で監獄に入れられた男。

男は釈放されて恋人も出来るが、どうにも仕事が上手くいかない。

二人は街を去り、映画は終わった。

古い映画だった。良い映画だった。

 

「先生」

「世間に馴染めない二人は街を去りましたよね」

「ああそうだ」

「じゃあ私達は?」

先生は答えない。

暗い画面を睨んでいる。

「思ったんです」

「女同士で恋愛って」

「世間がどう思うか」

「私」

「さっき電話の時」

「何て言えばいいかわからなくなっちゃって」

「それが寂しくて」

「何も恥ずかしくないのに」

私の声は震えていた。

視界も霞んでいた。

きっと先生は気付いていて、でも何も言わなかったんだろう。

しばらく、声も出さずに泣いていた。

 

「風呂、入るか」

「ほら立て、風呂だ風呂」

先生は私を急かす。

「…っ、はい、はいわかりました」

目元を拭いきると、精一杯の笑顔で応える。

「あれ?先生着替えは?」

そそくさと風呂場に向かう先生に聞いてみる。

「要らないから早く脱げ」

「ややこしい事は早く忘れろ。滅茶苦茶に抱いてやる」

思わず吹き出した。

「お風呂でですか?」

「ベッドでも抱いてやろうか?」

「じゃあ…お願いします」

私はわざとゆっくりショーツを下ろした。

 

立ち籠める湯気。

もちろん先生も私も裸だ。

シャワーで体を温める。

髪を洗う。

コンディショナーも忘れずに。

体も洗う。

「…あれ?」

先生が一瞬遅れて湯船に入って来る。

「先生、さっきの威勢は」

「っさい」

先生は顔を湯船に沈める。

「風呂でなんてどうやればいいか…」

顔を赤に染める。

可愛らしい乙女がそこにいた。

「…じゃあお風呂出てからにしましょうか」

「うん…」

ざぱーっ。

私が立ち上がると、先生も続いた。

 

ちゅっ。

先生は色んなところにくちづける。

唇にも。

頬にも。

額にも。

音を立てるように。

細い指が私の唇をなぞる。

「んっ」

「…ぁ」

先生の舌が這入ってくる。

それと同時に、先生の手が下に伸びる。

息が出来ない。

指の先が私をかき乱す。

覆い被さるようにして私を味わい尽くす。

「んんっ」

お互いの大事な何かを交換するような接吻。

指は次第に饒舌になる。

思わず声が出てしまう。

嬌声に気付いて、先生はより執拗に責める。

キスも段々と激しくなる。

舌を重ねて、指の動きに合わせて動く。

ゆっくりと、思考が空回りする。

指と舌の感覚。

それだけがリアルに伝わってくる。

じわりじわり、高みに導かれていく。

「はーっ、はーっ」

息苦しくなるほどのキスから、今解放される。

でも指は止まらない。

「あっ」

「あぁっ」

何も考えられない。

強い、強い快感が理性を溶かしていく。

「せ、せんせぇっ」

応えるように、絡みつく指

先生に導かれて、私は快楽の境地に達した。

 

「ふぅ…」

まだ器官は熱を帯び、頭は痺れるように働かない。

しかし、少し余裕も生まれてきた。

ここで私は意地悪をしたくなる。

「先生」

「今度は私の番です」

白い肌を舐める。

その陶器のような肌を、じっくりと愛でる。

内腿を伝って、小さな花弁に行き着く。

「先生のここ、もう準備万端って感じですね」

そう言うと、私は片側の花弁を口に含む。

「うるっ…さい」

照れを含んだ声に、私の嗜虐心はより盛り上がる。

舌を押し入れると、予想通り奥から蜜が溢れだす。

「やっぱり濡れてるじゃないですか」

「中学生のここいじって興奮しました?」

充血した上の蕾を指先でつつく。

「あぅっ…」

なるべくねちっこく、先生の反応を伺いながら小さな器官をいじめる。

熱い液が指に絡む。私は先生の上に身を乗り出すと、成人女性にしてはやや控えめな胸に手をつける。

「わあ、ここもビンビンですねえ」

乳首を右手、左手は下に伸ばす。

「ぁっ」

トーンの違う声。

「先生、ここ弱いんですか?」

返事は無い。

サディスティックな感情に火がつく。

執拗にいじる。

過剰にもてあそぶ。

「うっ…あぁ」

まだやめない。

「あす…かぁ」

まだやめない。

「やめ…っ」

ぴたっ。

「これで終わりでいいんですかー?」

手を離す。

「先生、まだイッてないでしょ」

「なっ」

図星なようだ。

先生の小さな門の縁をなぞりながら、「私に任せてくれれば、もっと気持ち良くさせてあげますよ」と囁く。

脈動。

その熱が期待を示す。

つい笑いをそそられる。

少し強めに指を動かす。

「ふっ…ぁ」

声を押し殺す先生。

小さな理性の綻びをぐじぐじと攻める。

「先生」

「我慢しなくても良いんですよ?」

「ほら」

空いた手で体のあらゆる所を撫でる。

「はっ」「ぁあ」「ふぁ…」

ここか。

キスする。

呼吸さえも奪うようなキスを。

水音。

息が出来ない。

全てを交換するようなキスを。

ぐずぐずに溶けてしまうくらい密着して、秘密のコミュニケーションを取る。

「あすか…もう」

「限界ですか?」

「だから、もう一回、キス…」

「仕方無い、ですねえ」

熱い体液を交わす。

吐息を感じながら、私は最後の仕上げにかかる。

呼吸の方法さえ閉ざされた先生は、近眼に少しの涙を溜めて快楽の階段を上る。

襞をなぞる。

先生の、秘密の場所。

私だけが知ってる場所。

恍惚と快感が乱れ咲き、私と先生は絶頂に達した。

 

カーテンの隙間から月が見える。

「先生」

言い尽くしたその言葉を、もう一度、言う。

「好きです」

先生は落としかけた瞼を開くと、「わかってるよ」と返す。

「私も…、あすかが好きだ」

「お前の強いとこも弱いとこも、全部」

先生が私に抱きつく。

眠気のせいで、空耳したかもしれないけど、先生は確かにこう言った。

「だから、その、あすか」

「生きていこう」

「二人で」

「私がお前を守るから」

「たとえ世界が相手でも」