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火気厳禁の書斎

名は体を表す。です。

暁ばかり 憂きものはなし

先生は優しかった。

大学二年、先生は私の前から去った。

あたしの心に、深い深い傷を残して。

 

 

先生と関係を持った。

それだけ。

一方的に断たれた。

それだけ。

体も心も寄りかかっていた。

私が悪い。

あの夜も、あの言葉も、私が悪い。

あの夜。

あの言葉。

全部冷えかかっていた。

消えかかっていた。

 

「でも私には将来がないの」

「ごめんね」

そう言った。

「でも」「私には」「将来が」「ないの」

あの人は、先生は、そう言った。

残響。

空白。

何も残らない真っ白な記憶。

終りを意味する記憶。

 

先生は病院の一番隅の病棟でひっそりと仕事をしていた。

初めての配属。

看護師の資格を取って初めての実務。

二人きりの病室。

白い看護服。

清潔なシーツと点滴。

 

二人は幕切れた。

私はインターンの仕事を切り、養護教諭の資格の勉強を始めた。

髪を染め、口調を変え、眼鏡を掛けた。

 

勤務が決まった。

新しい地で、新しい私の人生が始まると、思っていた。

繰り返し。

メビウスの環の上を歩く人生。

 

「先生」

森永あすかとの関係。

触れれば壊れそうな関係。

「好きです」

つややかな肌。

黒い瞳。

抱きしめたら、壊れてしまいそうな彼女。

触れたくない。

私のこんな手で触れば、きっと壊れてしまうから。

きっと。