火気厳禁の書斎

名は体を表す。です。

無題

鎮守府弓道場では、今日も正規空母達が演習をする。

道場には私と赤城さんの二人きり。

「珍しいですね、今日は二人ですか」

と赤城さん。

私は少しドキドキしながら、「ええ、赤城さん」と返事する。

この時を待ち望んでいたとはいえ、急に二人きりとは…。

弦を張り終えた赤城さんは、丁度私の前の立ち位置に入る。

「ねえ、加賀さん」

「?」

背中越しに話し掛けてくる。

「なんですか?」

「寝癖、ついてますよ」

「あっ」

射位には射形を見るための大きな鏡があり、赤城さんは後ろまで見えたのだろう。

私は顔から火が出そうに赤面しながら、弓を引く。

八節をなぞって矢を放つと、綺麗な直線を描いて的中する。

なんだか調子狂うなあ、と思いながら射位を出る。

後ろから赤城さんを眺める。

すっと伸びた背筋。

艶のある黒い髪。

凛とした表情。

いつ見ても綺麗な射形だ。

 

いつからか、赤城さんに惹かれていた。

弓を引く姿だって、何回見たかわからない。

私達軍艦は、いつだって危険と隣り合わせだ。

赤城さんと出撃する時、あの人はいつも言ってくれる。

「大丈夫です。慢心は禁物ですが」

いつも怯えていた。

いつも迷っていた。

赤城さんと離れるのが怖くて。

いつまでも一緒にいられることが出来たなら、なんて嬉しいことだろう。

 

「加賀さん?」

ふと顔を上げると、赤城さんが不思議そうな顔でこっちを見ていた。

「矢、取りに行きますよ?」

「あ、はいっ」

急いで弓懸を外す。

「あれ?」

「加賀さん、目が潤んでますよ?」

「あっ、えと、これは」

「ゴミでも入ったんですかね」

赤城さんが撃った矢は全て的に中っていた。

 

矢を持って道場に戻る。

弓懸を着け、再び射位に入る。

打起こし、大三、引き分け、会。

押手を保っていると、強い衝撃が起こった。

弓を見ると弦が切れていた。

頬に切れた弦が当たったのだろうか、少し痛む。

「大丈夫ですか」

「ええ、頬を打ったみたいですが」

「うわ。赤くなってますよ」

赤城さんが顔を近づける。

「ここに痕が…、綺麗な顔なのに」

指で頬をなぞる赤城さんからは、髪の良い香りがする。

どきん、と胸の音がした。

頬が赤いのは、弦のせいだけじゃないです。

赤城さん、私は、私は――――。

「…赤城さん、好きです」

 

私は思う。

こんな毎日が続けばいいのに。

こんな関係が、続けばいいのに。

だから、この瞬間を大切にしようと、私は思った。