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火気厳禁の書斎

名は体を表す。です。

丸の内ナチスティック [初出:2012/08/25]

「やがて、世界を統治しうるだろう」

旧東京国際フォーラム、現在の国会議事堂本館にて、内閣総理大臣目木凡又(まなき もとまた)は長い長い演説を終えた。

日本全土に中継放送されていたこの演説を、僕はもう七回も見ている。

画面の中では景色が切り替わり、建物の外が映し出される。

大きな街頭スクリーンには人々が群がり、党の象徴である格子模様がそこかしこに掲げられている。

ビルに、メディアに、人々に。

街が、目が、心が、党の色に染まった。

「当然」、この映像を見ても特に気になる点はない。

さあ、明日は休みだ。

深い眠りにつくため、脳が思考を放棄した。

 

喇叭(らっぱ)の音で目を覚ました僕は、その原因を模索した。

外で繰り広げられているのは、昨日の中国全土陥落を祝ってのパレードだ。

所詮、仕組まれた洗脳なのだろうか。

ふと、そんなことを思う。

僕はまた、演説を再生する事にした。

 

「日本軍、香港を占拠」。

そう書かれた新聞が、ビニール紐で縛られて、軒先に置いてあった。

そういえば今日は廃品回収の日だったか。

この東京第一地区ともなると、不要なゴミの出ないよう、常にリサイクルできる製品の回収を行っている。

『全ての無駄を省き、効率社会を目指す』。

これが党のマニフェストだ。

 

不要な物だけが、格子の目に振るい落とされる社会。

僕はこの丸の内に、いや東京に、たった一つの無用物なのかもしれない。

テーブルに置いたグラスは、冷たい露をこぼしていた。