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火気厳禁の書斎

名は体を表す。です。

Bad trip

この頃よく夢を見る。バッド・トリップのあの状態のまま寝ると必ずこの夢を見る。自分はどこか白く広い部屋の中、デスクの上の電話を取って何か喋っている。電話の相手は女だ。しばらく何か話していたその時、破裂音が炸裂する。頭を上げるとボーイッシュと…

Silver

ベルトコンベアの上の鈍い銀色。俺は手にした器具を機械的に規則的にその銀色にあてがって次に送る。眼はとうに銀色に慣れてその反射する鈍い光も馴染んだものだ。ベルトコンベアでさえも銀色だし、何が悲しいのか壁も床も全て銀色である。しかし画一で無く…

終わり

生温い日差しが部屋の隅から差し込む。静かな朝。いや、昼かもしれない。とにかく明るいということだけは確かだ。軋むドアを開けて外に出る。静かな街。いや、廃墟か? とにかくだ。まずは腹を満たさなければならない。街に残った食料について考える。ええと…

ヴァレンタイン・デイ

朝降っていた雪は雨に変わり、しとしとと公立高校に降り込む。僕は昨日買った「スプートニクの恋人」を開いてバスを待っていた。周りで同じ様にバスを待っている生徒の声。後ろの女生徒二人は文学好きらしく、源氏物語がどうだ江戸川乱歩がどうだと喋ってい…

愛か恋か慰み者

六角鉛筆でマスを埋める。 「はぁ…」 もう三日も学校に来ていない。 あいつは何をやっているのだろうか。 一応、保健室には全生徒の出欠名簿が届く。 私に解ってることぐらいあいつも承知だろう。 なんでこんな馬鹿げた真似を。 気付けば貧乏揺すりをしてい…

少女が少女であるうちに

生きているこの体が惜しい。 考えるこの頭だけ、ここに有れば好い。 記憶も感情も何もかも取っ払って、思考したい。 嗚呼、暖かな感覚が脳に伝わってくるそのコンマ数秒が惜しい。 「先生」 云々言ってないで早く入れ。 マンションの自動ドアを開ける。 あの…

暁ばかり 憂きものはなし

先生は優しかった。 大学二年、先生は私の前から去った。 あたしの心に、深い深い傷を残して。 先生と関係を持った。 それだけ。 一方的に断たれた。 それだけ。 体も心も寄りかかっていた。 私が悪い。 あの夜も、あの言葉も、私が悪い。 あの夜。 あの言葉…

彼女は無慈悲な私の先生

「…」 午前0時。 私は半分開いたドアの前、確実な返事を待つ。 「…仕方無いな、入れ」 廊下の闇が、室内の光を呑み込んだ。 この二日間、私は学校行事の泊まりがけ遠足に来ている。 無論保険医の先生も一緒だ。 『将来学習』がこの遠足のテーマだけれど、私…

威厳×純潔×無垢

「まーた怪我したのか」 先生の冷たい眼。 「ちょっと転んじゃって」 えへへ、と顔がほころぶ。 そんな私を見て、先生は余計に嫌な顔をする。 「ほら、早く見せてみろ」 「はあい」 救急箱の中から絆創膏と消毒液とガーゼ、慣れた手つきで取り出すと、「ここ…

少女幻像 【初出:2013/08/10】

少女はその女性用下着を身につけた時、とても大きな危機を感じた。 「自分はもう、こんなにも成長してしまったのか」。 恐ろしい程に自分は成長してゆく。 少女は、時間の流れを呪う。 自分の清廉を奪う時間を。 少女は、組み立てられる都市を呪う。 汚染と…

夕暮れ再教育

「はぁ…んっ」 私は今、保健室のベッドの上にいる。 もう夕陽がこの部屋の中まで差し込んで来て、白いカーテンを橙に染める。 私は毎日この保健室で『ひとりあそび』に耽る。 先生の広い部屋に忍び込んで、先生と同じ空気を吸い、先生の質感を味わいながら――…

ウネ貴公子と胸騒ぎの東京湾

『M』は突然の要請に驚いた。 人工衛星「チャーチル」の広域金属探知機能を作動させるのは航空宇宙局の認可が要る。 部署間のホットラインに指をかける。 「あーもしもし。至急東京湾全域の金属探知を開始してくれ」 「五秒しか待たないぞ、いいな」 画面に…

秘密

遠くから聴こえるお祭りのざわめき。 私達はその夜、「友達」じゃ、なくなった。 「ん…」 息苦しいような声を上げ、二人はその口を解いた。 目は熱を帯び、吐息は少し荒っぽい。 「ねえ…」 顔が近づく。 「もっと顔、寄せて」 女の子の匂い。 その甘い、しか…

告白

「俺の女になれよ、龍田」 天龍ちゃんは私を壁際まで追い詰めて、こう言った。 「で、でも…」 私にとって天龍ちゃんは大切な仲間。 それも一緒に生き死にの境を潜り抜けるような、とにかく強い絆で結ばれている。 でも、それは恋じゃない。 愛じゃない、と思…

無題

鎮守府弓道場では、今日も正規空母達が演習をする。 道場には私と赤城さんの二人きり。 「珍しいですね、今日は二人ですか」 と赤城さん。 私は少しドキドキしながら、「ええ、赤城さん」と返事する。 この時を待ち望んでいたとはいえ、急に二人きりとは…。 …

ウネ貴公子とカリソメ乙女 後編

臙脂紫は肩で息をしながらも、その眼を動かし続ける。 「ソヴィエトの連中、なんで矢を撃って寄越したんだ?」 黒い双眸を輝かせて彼女は振り返る。 「『新生ソヴィエト連邦』は軍まで作ってるのよ。どうやら特殊部隊の『弓道連隊』が動員されたみたいね」 …

ウネ貴公子とカリソメ乙女 前編

閉ざされた季節が、この東京にもやって来る。 貴公子はアスファルトを踏みしめて征く。 先手必勝、夜会服から取り出した拳銃の、その頼りなげな引き金に指を掛ける。 躊躇いも逡巡も捨てた。 暗い道には、もう誰も居なかった。 日本には五日前、いつものプラ…

ウネ貴公子と緑茶亭の住人 後編

広間のドアを開く。 見慣れた風景とはいえ、大きな一枚の絵が無くなっていると結構様変わりするものだ。 「まあ、実況見分は要らなさそうだな」 爺やは特に解説することもなく、側に控えている。 一つの確信を持って、貴公子は告げる。 「この屋敷の中に『二…

ウネ貴公子と緑茶亭の住人 前編

貴公子の朝は早い。 手早く着替えを済ませ、各国の新聞に目を通す。 スリランカから取り寄せたセイロンの香りを愉しみつつ、昨日の知識を更新する。 丁度「タイムズ」紙を読み終えた頃、ジリリリリリと電話が鳴った。 少し億劫そうに受話器を取る。 「もしも…

名探偵の前に [初出:2013/08/07]

よく晴れた日曜日。 滴る血。 フローリングには、赤い赤い深紅の色が刻まれている。 それは深く、洋室に一種の「真剣味」を与えている。 静まり返った室内。 あなたは透明な存在、いわば視点となって部屋を見下ろしている。 さながら、定点カメラのように。 …

或る少年の一生 [初出:2012/04/29]

少年は不潔なものが嫌いだった。 だからそれらの全ては何故汚いのか尋ねた。 「そういうものなの」 「仕方が無いのよ」 少年は勉強が嫌いだった。 だからそれらの全てを放棄した。 「宿題やったの?」 「今日、居残りしてけよ」 少年は人付き合いが嫌いだっ…

バトルバトラーバトレスト [初出:2012/05/13]

ボスからの久々の指示。 端末のメールフォルダに表示された『MISSION』の文字に心が躍る。 闇の町に出た僕は、指定装備のボウガンと暗視スコープの『リミッター』を外し、標的を探した。 走る。 二本の足で走る。 古くからの建造物群をかいくぐり、標的――同…

罪の味 [初出:2012/04/30]

夜が静寂と闇を運び、朝はさえずりと光を運ぶ。 小鳥の声で目を覚ました僕は、急いでいた。 時計はもう六時二十三分を指していた。 「ヤバいヤバいっ」 翌日用の服を着て寝ておいて正解だった。 僕は冷蔵庫を開け、食料を探す事にした。 「…!?」 赤。 鮮血…

殺し屋 [初出:不明]

古臭いアパートの戸をノックする。 少し間が空いて、一人の少女が顔を出す。 「どちら様で…、ああ。予約なさっていたKさんですね。少々お待ちください」 パタン、と戸が閉じられる。 Kは今年37歳になる駄目人間で、色んな人に迷惑を掛けてきた。 成人する…

『』 [初出:2012/10/27]

まったく嫌になる。 懐古主義のプロパガンダの、何処が『メッセージ』というのだろうか。 『ルールを守る』ことは、『飼い慣らされる』ことなのだろうか。 貴様に、この国を語る権利があるのだろうか。 私は溜息を一つついて、イヤホンを取る。 ただただ退屈…

丸の内ナチスティック [初出:2012/08/25]

「やがて、世界を統治しうるだろう」 旧東京国際フォーラム、現在の国会議事堂本館にて、内閣総理大臣目木凡又(まなき もとまた)は長い長い演説を終えた。 日本全土に中継放送されていたこの演説を、僕はもう七回も見ている。 画面の中では景色が切り替わ…

肉味噌炒め [初出:2012年02月07日]

我が家は父子家庭だ。 母は三年前に事故で死んだ。 僕は今中学一年生、父は三十七歳で、普通の会社員。 生活に苦しんだことはない、金持ちなわけではないが。 「いただきます」 今日の夕食は肉じゃがと小松菜のお浸し、キャベツの肉味噌炒め。 「お前、昨日…